IGPIレポート 共創

IGPIレポート 共創 2026年号vol.41

AI時代にIGPIが提供する価値とは ―― IGPI新CEO・塩野誠インタビュー

IGPIグループの祖業でもあるコンサルティング事業を担う経営共創基盤(IGPI)。2025年12月、塩野誠がIGPIの代表取締役CEOに就任しました。香﨑飛竜(2024年新卒入社、写真左)と小平佳鈴(2025年中途入社、写真右)の若手メンバー2名が、IGPIのこれまでと今後について、塩野にインタビューしました。

AIは「なんでも知っている新人」

香﨑 コンサルティング業界では、リサーチなどの業務がAIに代替されつつあります。私自身入社から日が浅い「ジュニア」の立場で、日々の業務でAIを活用する中で、その進歩の速さには驚かされます。AIが進展するにつれ、人間の役割は「責任を取る」ことに集約されるということもよく言われますが、コンサルタントはクライアント企業の経営について、直接責任を取れる立場にはありませんよね。こうした中で、人間のコンサルタントの存在意義を塩野さんはどのように考えられていますか。

塩野 私は、コンサルタントの役目は最終的には経営者のカウンセラーだと思っています。最後の最後、人間は人間に決断の後押しをもらいたいし、相談をしたいと思っている、というのが、これまでコンサルタントとして多くの経営者の方々に伴走してきた私の感覚です。
AIの発展についていえば、今まで1週間かかっていたリサーチを生成AIが数分で行えるようになっています。例えば、私が働き始めの頃は、金融電卓が会社から支給されていて、それをパパっと使えるのが「コンサルらしい」と思われていました。でも今はそんなもの使いませんよね。AIに限らず、数十年で技術が大きく変わるのは当たり前で、こうした最先端の技術を先んじて取り入れ、その「肩に乗る」のも、プロフェッショナルファームとしては当然のことです。
こうした進歩を続ける技術にも代替できないのが、信頼に足る生身の経験です。逆に考えてみましょう。どんな相手なら信頼できるか、どんな相手のアドバイスを聞き入れたいか。やはり、その人固有の経験、すなわち「その人だけのストーリー」こそが重要であり、それは「なんでも知っている新人」にすぎないAIには提供できない価値です。
クライアントと話していると、よく他社事例を求められます。でも他社は他社であって、目の前にいるクライアントそのものではないですよね。そこで、他社事例をまとめて持っていくだけではなく、それを踏まえて「他社はこうだけど、御社とはこんな違いがある。それを踏まえると御社はこうすべきだと思う」と言えるのが人間の会話だと思います。

引き出しの多さがロジカルな信頼を作る

塩野 コンサルタントは「ナレッジブローカー」つまり知識を移転させることで価値を提供する仕事です。上海で起きていることをニューヨークに持っていくとか、小売業の事例を鉄鋼業で考えてみるとか。だから最後にはジェネラリストが力を持ちます。いろんな産業で経験を積むのは大変で時間もかかりますが、知識の引き出しを増やさない限り、マネジメントのプロにはなれません。

小平 IGPIで発信している「真の経営人材」とは、まさに「マネジメントのプロ」ですよね。私自身、この概念、とくに「常識を疑う」という部分に強い共感を覚えてIGPIに参画しました。

塩野 「真の経営人材の創出」はIGPIグループの設立理念にも掲げられた、創業の根幹となる考え方です。その理念のもと、グループ内には皆さんがマネジメントのプロになるための経験の場が数多く用意されています。日本共創プラットフォーム(JPiX)には投資や経営の機会があり、先端技術共創機構(ATAC)では研究者との共同創業を通したインキュベーションに取り組んでいます。国際協力銀行(JBIC)との合弁会社であるJBIC
IG Partnersでは海外におけるエクイティ投資にも関わることができます。
そこで積めるのは「話が通じない」経験です。我々はどうしても自分と似通った論理で動く人と過ごしがちですが、そこを飛び出て、自分の常識が通用しない世界で、いかに目の前の相手を動かすかに苦心することで、「あそこではこうだった」というコンサルタントとしての引き出しが増えていくものです。
クライアントが寄せてくださる信頼も、こうしたその人固有の経験や知識に基づいています。豊富な知識と経験をベースにしたロジックに信頼があるから話を聞いてもらえます。経営者の「この人のアドバイスを信じる」という意思決定は曖昧なものではなく、分解・構築可能なものだと思います。

香﨑 塩野さんも実際にそうした経験があるから、経営者からの信頼を得られるのですね。

塩野 まずは経営者との議論や軋轢を恐れないということです。経営者が前のめりになっているM&Aや新規事業でもNOと言える勇気が必要です。その時は対立しても時が経って感謝されることもありますし、それが長期的な信頼につながっていくものです。例えば高過ぎる買収価額に対して、「これ以上は出してはいけません」と経営者に伝える際に、他の設備投資に資金が回らなくなる話をして、金銭的インセンティブを間違えると従業員は本当に簡単に辞めてしまう、といったことを自分の経験で語れば、経営者にご理解いただけることもあります。
こうした経験の引き出しを増やすことはより自由に、よりクリエイティブになることにつながっていきます。「そういう考え方があったか」とクライアントが膝を打つようなアイデアを提供できるのも経験量が多いコンサルタントです。IGPIが行動指針として掲げる「8つの質問」の1問目には「心は自由であるか?」がありますが、私は引き出しの多さが「心を自由に」持つための一つの重要な要素ではないかと思います。

仮説を立て、解像度を高めるために

香﨑 従来は経験が浅い若手でも、リサーチなどのある意味「作業」的な部分で役に立てたのではないかと思いますが、今はそうした存在価値が発揮しにくい状況になっていますよね。そんな中で、まだ経験値が積みあがっていない段階から、経営現場の最前線に入っていく機会があることは非常にありがたい反面、プレッシャーも感じます。

塩野 コンサルタントとして、タフなプロジェクトこそ楽しんでほしいと思います。ポジションにもよりますが、プロジェクトのトップであればネガティブに頭を抱えることに意味はありません。これがダメならあっち、あれもダメならそれだというように解を考え続けなければならないからです。香﨑さん、小平さんはじめ、IGPIにいるコンサルタントは、将来的にはそうした立場に就く人ですから。
コンサルタントの仕事を分解して考えてみると、クライアントが抱えている困りごとに対し、仮説を構築し、検証し、違えばまた別の仮説を考えるという部分はサイエンスに近いものがあります。そのためには仮説を構築する能力、言い換えれば問いを立てる力が必要であり、引き出しの多さもその一つの要素と言えるでしょう。
一方で、実際にリアルな世界でやることなので、単に仮説を立てて検証を回せるだけでは足りません。例えば、「他社と提携して海外進出」という施策を考えた時、本当にその会社と提携できるのか、進出先での営業許可は下りるのかといった数多くの分岐点が現れます。これらの分岐点を最初から自らの経験や知識に基づいて描けることが「仮説の解像度が高い」ということです。
戦略立案だけでなく、変革の実行を粘り強くハンズオンで支援していることはIGPIの特徴のひとつですが、そのベースには経験に裏打ちされた仮説構築力と解像度の高さがあります。

「変わっていく」を変えない

小平 今回、塩野さんは創業メンバー以外から初めてのCEO就任となりました。「これは変えない」「これは変える」と決めていることは何でしょうか?

塩野 IGPIが変わっていくことを変えない。ずっと変わり続けていく組織だということを改めて示したいと思っています。IGPIは産業再生機構のメンバーが立ち上げた会社で、創業当時は企業再生を強みとしていました。創業から間もなく世界的な金融危機、いわゆるリーマンショックが発生し、いわば時代のど真ん中で最初から活動してきました。そこから自分たちの資金を使った自己投資で、ローカルの事業を恒久的に保有し、価値を高めるというモデルを生み出しました。最初に話題に出たAIについても2011年ごろから先進的に取り組んでいます。また、2017年ごろからは、国際情勢のマクロな動きを見極め、国際協力銀行と北欧での投資事業に携わってきました。当時はなぜ北欧なのかと疑問視する声も聞かれましたが、今では投資対象として魅力的なユニコーン企業が多数出てきている上、国際政治上も、日本と同じ価値観を有する同志国として重要な地域になっています。このように、IGPIは常に時代の半歩先を見据えて変化を続けてきました。

小平 CEOはカトリック教会の最高指導者である教皇を選ぶ際の秘密選挙「コンクラーベ」と同じ仕組みで選出されたそうですね。選ばれた受け止めはいかがだったでしょうか?

塩野 世の中が変わっていく中でどう価値を作るかと考えた時、すべては影響力だと言えます。つまり、実際に周囲を動かし、物事を推し進めていく力があるかどうかです。だとすれば、なるべく影響力を持ち、それを世の中をよくする方向に使っていく以外の道はないと思います。今このタイミングで選ばれた私の役目は次のCEOを作っていくこと、IGPIを私なりに考えるよりよい方向に進めていくことです。
私自身はここまで、自分が一流のところに行くのではなく、自分の行ったところを一流にするんだという心構えで進んできました。社内のメンバーに対しては「ここにいる意味」を作っていきたいし、そうした誇りこそが少数精鋭の「真の経営人材」によるクライアントへの価値提供を可能にすると思っています。

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